近くには美術研究所も美術予備校も無く、一緒に美大を目指す仲間もほとんどいない。そんな地方で美大を目指す受験生はどの様な対策をしたら良いのでしょう。地方の小さな美術教室だからこそできた事、対策に立て方について振り返ってみようと思います。
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11月油絵ふねクラスのH.hさんが武蔵野美術大学 空間デザイン学科に合格しました。総合型選抜という方法での受験で一般選抜より早く結果が出て、今は春まで更に自分の表現を深める制作に取り組んでいる彼女を見ていると、本当にこれからの成長が楽しみです。
アトリエsolaは児童美術教室ではあるけれど、受験に特化した美術教室ではありません。技術を教え込む画塾でもありません。近くには美術研究所も美術予備校も無く、地方で美大を目指す高校生にとって一緒に美大を目指す仲間もほとんどいない。そんな中で彼女の挑戦はきっと同じ境遇の受験生の役に立つかもしれないという思いで彼女の許可を得て彼女との数年間を振り返ってみようと思います。そして地方の小さな教室だからこそできた対策もあるように思います。そのことについても振り返ってみようと思います。
美大受験を迷っている人へ
美大と専門学校で迷っている人、美術は好きだけど美大を目指せるか不安な人、総合型選抜試験と一般試験で迷っている人、地方からの美大受験で不安がある人に読んでもらえたら嬉しいです。たった1例ではありますが、参考になったり美大受験に対する具体的なイメージが湧くのではないかと思います。
高校1年生の春
H.hさんは高校1年生の春からアトリエに通ってくれています。H.hさんとは教育実習生として地元の中学校に学びに行った時に出会いました。(私は大学卒業後大分経ってから教職過程を再履修していました。)中学校では運動部に所属していた彼女でしたが、美術の授業の作品にはこだわりと楽しみながらも決して手を抜かない姿勢が見て取れて「作るのが好きな子なんだな。」という印象を持ったことを覚えています。その後、アトリエsolaの存在を知って訪れてくれたのです。
高校受験が終わり、新しい学校の選択科目で美術をとったこと、ゼミの美術研究で初めて油絵の模写をするので色々教えて欲しい。そんな相談をしてくれたのを覚えています。高校生活でも運動部に入り、美術一本という訳ではなく色々な事に挑戦しながら学校のゼミと、このアトリエとで制作して仕上げた模写作品は1年じっくり時間を掛けた精巧な仕上がりで、初めて描いた油絵とは思えない様な素敵な作品でした。これは彼女の研究心と真っ直ぐ作品に向き合う力があったからできた事だと思います。決して初めから上手く描けた訳ではなかったのですが、1つ1つ失敗しては立ち止まり、学校の美術の先生や私に質問し、自分で調べ、常に試行錯誤しながら1歩1歩前進していく姿がありました。
この時の制作の楽しさと手応えは芸術の道を志すきっかけになったと、後から話してくれました。
高校2年生の進路選択 専門か大学か
学校の進路指導の一環で行きたい大学について調べる中で、美術大学ってどんなところですか?どんな授業がありますか?勉強の授業もありますか?そんな会話を夏休み前にしていたのを覚えています。この時、彼女はファッションに興味があって、専門学校への進路を1番に考えていた様でした。本当は服飾系専門学校についてもっと調べたいけれど高校の課題では大学について調べることになっていて、都内の美術大学について調べていた様です。そんな彼女に私は
「美大でもファッションについて学べる学科があるよ。専門学校と比較してみたら面白いかもね。」と声をかけました。
そんな経緯で少しずつ美大の存在を意識し始めたのかもしれません。その後、しばらく彼女は専門学校と美大との間で揺れていた様でした。そして教室の度に会話を重ねる中で彼女が服作りや服飾デザインだけでなく、ブランディングや大きなファッションという流れの様なものに興味があること、素材や日本の伝統や工芸などにも広く興味を持っていること、その多彩な興味がどんな形で自分の表現につながっていくのかまだ分からず迷っていること。なんとなくそんな事が伝わってきました。それなら、その大きな興味を自分の表現へと固めていくための大学4年間はとても意義ある学びになるのではないかなと私は思っていました。専門学校は2年間という事もあって美大卒業後に更に専門性を磨くために行く人も私の周りには沢山いました。やりたいことがある高校生にとって大学の4年間は長くもどかしいもののように感じるかもしれません。しかし私にとって美大での4年間は深く多角的に自分の表現のあり方を考える貴重な時間でした。卒業時は4年間学んでも、まだまだスタート地点に立てたかどうかも怪しいものでしたが、今振り返ると美大で学んだ4年間の厚みある学びは明らかに今の自分の表現の土台になっている様に思うのです。4年間で蒔いた沢山の種を今もずっと育てている様に思います。
大学のキャンパスへ行ってみる
夏のオープンキャンパスに行くことができたら良かったのですが、コロナ禍で叶わなかったため、1月に美術大学で行われる卒業制作展へ行ってみるといいよ。と声をかけていました。ちょうど予定が合った事もあって、この際一緒に行ってこようという事になりました。私の母校でもあったのでキャンパスを案内しながら一緒に回りました。1つ1つの作品を興味を持ってじっくり見ながら、生き生きと大学の雰囲気を味わう彼女の姿を覚えています。
実際に志望校に足を運んでそこでの学ぶ自分の姿をイメージしてみることはとても大事な事だと思います。志望校で迷っているなら尚更、その場に行ってみるとなんとなくではあっても気持ちが決まるのでは無いかと思います。
その後、美大受験を心に決めた彼女と一緒に計画をたてていきました。
高校3年生 やる事リスト 受験対策と受験方法の選択
高校3年生を控えた2年生の1月。志望校の資料を一緒に見ながら対策を考え始めました。そこでその時に書き出したチェックリストは
- 都内の美術研究所・美術予備校の春季講習に短くてもいいのでまず行ってみる。
- 春休みの春季講習までにデッサン力・初歩的な色彩構成力を育てる。
- 春までの2ヶ月でアクリルガッシュの扱いに慣れること。必要な道具を揃える。
- 4月からは夏前までは受験対策としてのデッサン・色彩構成の基礎を中心に毎週制作していく。
- 総合選抜・一般・共通テスト利用 3つの方法がある。3回チャンスがある。
- 総合選抜に挑戦するなら7・8月には決定・準備を始める。
- 総合選抜を考えるなら学校行事のポスターデザインなどに積極的に関わり、その他にもできるだけ自分の作品ストックを増やすこと。(ポートフォリオ対策)
- 美術研究所の夏期、冬季、直前講習に通うことを視野に入れておく。
というものでした。本当はこのアトリエだけで全ての対策をしてあげられてら良いのですが、美大の近くにある都内の美術研究所は受験対策に特化していて長期休暇の講習には全国から美大を目指す受験生が集まってきます。その空気感に触れることや、毎年受験生をみている先生方の指導を受けることは大きな力になると思いました。このアトリエでは基礎的なデッサン力、色彩構成力を夏までに育てながら、秋からは受験を想定した予想課題を作ってサポートしていく計画を立てました。
総合型選抜を決めたのは高3の夏
「やっぱり、総合型選抜にも挑戦したいと思います。」
都内の夏期講習に12日間参加して帰ってきたH.hさんから宣言されたのは8月の中旬ごろでした。一般受験対策を頑張ってきて少し立ち止まって、やっぱり自分の興味と得意を生かして挑戦できる総合型選抜試験にかけてみたい、そんな思いを感じた決断でした。
その日から一般試験の対策はお休みして9月上旬に提出の1次試験の提出作品制作に取り掛かりました。その後1次の結果を待たず、11月初めの2次試験に向けてポートフォリオ制作、2次の提出作品制作に取り掛かりました。
総合型選抜入学試験(武蔵美 空間デザイン)日程
・9月願書・1次課題(B4サイズ)・制作意図文章 提出→10月上旬合否発表
・11月上旬2次試験 面接・感覚テスト・提出課題とポートフォリオ持参→11月中旬合否発表
今まで学校の文化祭や体育祭で衣装やポスター作りを率先して行ってきたのがH.hさんの強みでしたが、それだけではポートフォリオにはまだ弱さがあったため2次の提出作品の制作過程や制作に派生し出てきた実験的な制作も記録してまとめる事にしました。彼女の場合は2次試験の提出作品として洋服を制作していたので、制作過程で必要になった染色についてまとめたり、興味のあったファストフあァッションについての考えを文章にしたり、デザイン画や生地デザインを何通りもまとめる作品も制作していました。
パソコンでの作業が難しかった事もあり、ポートフォリオはあえて手書きのスクラップブック風にしたり、生地やレースを張り込んだり手作り感を大切にまとめて行きました。
選んだファイルが半透明のものだったことから1ページ目を表紙として作り込みファイルのカバーから透けて見えるような工夫を思い付き、刺繍や張り込みにこだわった表紙を制作しました。
感覚テスト対策 総合型選抜試験
その他、直前に面接の練習や感覚テストの過去問、予想問題を最後の3週間前に集中して取り組みました。感覚テストは試験時間が1時間とかなり短いので、出題に対して10分程でエスキースをまとめて残りの時間で鉛筆表現の描き込みをします。仕上げとタイトルの決定、書き込みにも時間を取られることを考えると描く時間は45分程度と考えるのが妥当です。時間が短いので写実的なテクニックやリアルな質感表現のための上手さにこだわるよりも、自分の意図を伝えるための構図の工夫や、明暗を意識した印象的な画面づくりができる力が必要です。感覚テスト対策はしない人もいると聞く事もありますが、この練習はしておいて良かったと思える事の1つです。大学のホームページから過去問をチェックして最低でも3年分は時間を計って本番と同じ条件で練習しておくといいと思います。
このアトリエだからできた美大受験対策
最初に書いた様にこのアトリエでは大手の美術研究所と同じ様に対策をすることは難しいです。しかしほぼ1対1での対策ができる事での強みもあります。一緒に受験する美大と科の傾向を研究して、受験生本人の強みと苦手を知った上での対策を考えて行くことができるのです。この秋はH.hさんと一緒によくアトリエの庭で草木染めをしました。都内の美術研究所から帰ってきた彼女と必要な力を洗い出して取り組む課題を決めて行きました。制作しながらの休憩に沢山話をして、やりたいことの方向性や自分自身の作品性を見つめていくことが出来たから、きっとその事は総合型選抜試験に活かされたのではないかと思います。
総合型選抜試験に挑戦すると、万が一だめだった場合も一般受験に再挑戦することが可能です。しかし、総合型選抜試験の準備は思っていたよりハードだった様に思います。H.hさんも全身全霊で挑んだからこそ、もしもの時は11月から気持ちを立て直し再び頑張れるかの不安があった様に思います。「もしもの時はまた一緒に対策を考えるから大丈夫!!」そう言ってストップしていたデッサンと平面構成の練習に再び取り組みながら結果を待ちました。今回は見事合格を勝ち取って本当にホッとしました。12月の今振り返ってみると総合型選抜試験が終わった後に11月から一般試験に向けて立て直すことも、それまで一般の準備にも取り組んでいれば、気持ちさえ立て直せれば十分可能だと思います。
彼女の受験を通して、1人1人似合った受験方法で挑めるようなサポートが少人数だからこそここでは出来るということに、私自身気づかせて貰いました。これからもし、美大受験に挑戦したい人が身近にいるならば力になりたいと思っています。高2の秋〜冬にスタートを切ることが理想です。今ふねクラスにはもう1人来年度の受験に向けて走り出した生徒さんがいます。地方から美大受験を目指す高校生、応援しています。もし美大を目指すことがあなたの理想なら、まず美術の先生や身近な美大出身者に相談してみてください。1年かけてあなたの表現を磨き、同じ進路を目指す仲間の作品に触れ、自分のやりたい事に向き合う経験はきっとこれからのあなたの力になってくれる経験になると信じています。
H.hさんの受験体験記、ポートフォリオ、面接対策について引き続き書いていく予定ですので気になる方はチェクしてみてください。
・美大総合型選抜 合格者ポートフォリオ公開 美大受験体験記2
・総合型選抜・推薦型選抜の実技対策 美大受験体験記4
・合格者の声 美大受験体験記5


